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創傷治療03 創傷治療考察

創傷治療考察

Question

  • 創は乾燥した環境で治癒する?
  • 毎日ガーゼ交換は必要?
  • 傷は水に漬けてはいけない?

私は、以前は創傷治療に関して、いくつかの疑問を抱いておりまして、それについて少々考えてみました。
まず、疑問だったことは、上の3点です。
病院を受診すると、「傷が乾いてきたね」とか、看護師さんに「毎日ガーゼ交換に来てくださいね、傷が膿まないようにね」とか、「傷は水に濡らしてダメですよ」とか、言われた経験はありませんでしょうか?
少なくとは私は何回も言われた覚えがあります。また、昔は自分でも言っていたような覚えもあります。
でも、これは正しいことでしょうか?

下腿潰瘍、褥瘡(床ずれ)、難治性創傷などの経過に関しては、感染、栄養状態、基礎疾患、外力、創部環境などが関与すると考えられています。
感染、栄養状態、基礎疾患に関しましては、それぞれの治療方法がありますので、今回はこのことには触れずにおきます(言いたいことはありますが)。
外力、創部環境といった創傷管理について考えていきたいと思います。


皮膚の構造

皮膚の構造は、図のように、機能としてバリア機能、水分排出と保湿機能、体温調節機能、皮膚感覚機能、栄養分の保持機能などを司ります。
そして、皮膚の構造としては表皮、真皮、皮下組織に大別され、創傷治療に関しては、真皮の部分が大変重要となってきます。
真皮は乳頭層、乳頭下層、網状層に分けられ、真皮と表皮の間にあるのが基底層と呼ばれる基底細胞が一列に並ぶ部分があります。
この基底層が大変重要なのであります。


熱傷での状態
熱傷(ヤケド)を例に取りますが、熱傷はⅠ度からIV度に分けられますが、Ⅰ度は表皮にとどまるもの、Ⅱ度は基底層が侵されるもの、Ⅲ度は真皮網状層まで侵されるもの、IV度は皮下組織まで侵されるもの、とされます。
熱傷ではⅡ度になりますと、通常の約30倍の水分が喪失されます。
しかし、熱傷部位で水疱(水ぶくれ)が形成される場合には水分喪失は起こらないことになります。


ガーゼによるドレッシングの場合

創傷をガーゼを貼付して治療した場合には、創内から通常時の約30倍の水分が浸出液となって水蒸気として痂皮(かさぶた)を通過して創部から失われれることになります。
そして、創内は乾燥して、創底部に残った基底層、真皮まで乾燥して腐ってしまいます(乾燥壊死)。
その結果、よく見られる真っ黒なカサブタが形成されることになるのです。


ガーゼによるドレッシングの場合2

表皮の形成は基底層の細胞が創縁より延びてきて完成するわけですが、痂皮がある場合には基底細胞は壊死組織の上を延びることが出来ずに創治癒は非常に緩慢なものになってしまうのです。
さらにこれに追い打ちをかけるように、ガーゼ交換するときに、ガーゼに付着した痂皮とともに新生表皮細胞までもが一緒に剥がされてしまって、さらに表皮形成が遅れることになるのです。
こういう状況、今まで陥ったことはありませんでしたか?
経験なしといわれる方はラッキーな方です。これを防ぐために(というより見ておれずに)ソフラチュールといわれる軟膏付きのガーゼを貼り付けることが多いのです。
そうしても、翌日にはカラカラに乾燥したソフラチュールのガーゼ部分(軟膏は吸収されてしまっている)が新生表皮をつれて剥がされてしまうのです。
これでも、傷が治っていたのだから、人体の治癒力とは凄いものです。


ハイドロコロイドドレッシング製剤などの創傷治療貼布剤

そこで、近年、褥瘡などの処置を中心に見かけられるようになったハイドロコロイドドレッシング製剤などの創傷治療貼布剤が急速に認知されてきました。
上の写真は、当院で使用しております製品ですが、各種取りそろえて、製品供給も急速に改善されてきております。
当院で最もよく使っているのが、デュオアクティブET、コムフィール、ビューゲル、ハイドロサイト、ソーブサンなどです。


ハイドロコロイドドレッシングの場合

そこで、ハイドロコロイドドレッシングを用いた場合の創傷はどうなるかを考えてみます。
ハイドロコロイドドレッシングは、外側がウレタンフォームで防水作用があり、内側の層に疎水性ポリマーの中に親水性コロイド粒子、いわゆるハイドロコロイドが封入されている構造です。
これは正常皮膚を乾燥した状態に保ちながら、創内は湿潤環境を維持し、潰瘍周囲皮膚が保護されます。
これは、基底細胞増殖・移動に最適な環境となるわけです。ドレッシングを剥がす際にも創傷治癒に必要な物質を含んだ浸出液を含むゲル状物質が創内に分離しますので新生組織に損傷を与えないことになります。


ガーゼとハイドロコロイドドレッシングの比較

ガーゼで創処置をすると、表皮が壊死して痂皮となり、痂皮の下で細菌増殖が起こり、容易に蜂窩織炎を起こしやすい状態となるわけです。さらにガーゼ交換によって細菌侵入の機会を増やしているとも言えます。
閉塞性ドレッシングの場合は、創内に浸出液を貯留させ湿潤環境が維持され、創の治癒が促進されます。
また、創内には低酸素状態に維持され、抗菌作用を有するハイドロコロイドの作用も相まって細菌増殖が鎮静化される状態になります。


Winterの記した創傷治療の模式図

上の図は、Winterの記した創傷治癒の模式図ですが、左側は閉塞性ドレッシングの場合、右側はガーゼドレッシングの場合を示します。
湿潤環境では上皮細胞は容易に創傷面を覆うことが出来るが、乾燥した痂皮の下をどうにか這っていく上皮細胞は、足場もなく、いつも乾燥による”死”の恐怖におののきながら遅々として歩みをすることになります。


創傷治療に影響を与えるその他の諸因子

ドレッシングだけの話をしましたが、その他にも創傷治癒に影響を与える因子について考えます。 まず、消毒薬です。ヒビテンもイソジンも過酸化水素水も同程度に治癒に悪影響を及ぼします。イソジンは毒々しい色をしているのに対し、ヒビテンは皮膚に優しいと思われている方もあるかもしれませんが、障害度はそんなに変わりません。 実は、創処置に際しては、創内は生理食塩液で洗浄するだけにして、いわゆる消毒薬は使わないのが、傷に対して最も正しい使い方なのです。 また、創内の温度ですが、ガーゼドレッシングにはほとんど保温効果のないことがわかります。ウレタンフォームではほぼ体温が維持されているのがわかります。 さらには、ガーゼを張るときの粘着剤も除去時と貼っているときの張力が傷に与える影響が大きく、その他にも除去反応、過敏反応なども創傷治癒に影響することがわかりました。


壊死組織除去の方法

消毒薬もガーゼも悪いとなると、感染創や壊死組織のある創はどうすればよいのでしょうか?
壊死組織の除去法は、外科的に除去するほかに、湿したガーゼを頻回に取り替えるwet to dry dressing法(数時間おきに取り替える必要がある)、カルトスタットを充填する方法、デブリサンを充填する方法、生理食塩液による高圧洗浄法などがあります。
感染が著しい場合にはwet to dry dressing法が最適ですが、その他の方法も効果があります。
一番してはいけないことは、消毒液を創内に多量に使用することです。
こう考えてくると、閉鎖療法を行ってはいけない状況がわかってきました。
つまり、感染創、瘻孔形成した創、広いポケットがある場合、浸出液が異常に多い場合、筋肉にまで達する深い傷などです。


ドレッシングの比較

ガーゼドレッシングと閉塞性ドレッシング(閉鎖療法)を比較しますと、ガーゼは安価で材料が手に入りやすく、容易に実施が可能であるという点ですが、湿潤環境が作れず、創面に固着するという欠点があって、感染のない一次縫合層と浅く小さな傷だけが適応になります。
閉塞性ドレッシングの適応はこの逆と考えていただければよいですが、非常な特徴として、疼痛緩和作用があるという点は覚えておいてください。これはヤケドの場合に顕著です。